当たり馬券配当事件 続編(担当弁護士さん登場)

以前の記事で取り上げた件について、担当弁護士の方がQ&Aを公表されていた。納税者側の主張についてワタクシが思い違いをしていたところや、報道より詳しい情報が含まれていたので、とっくりと眺めてみる。

年度ごとの収支

           購入金額    配当金額        差額
平成17年    9900万円    1億 800万円    900万円
平成18年  5億3800万円    5億4400万円    600万円
平成19年  6億6700万円    7億6700万円      1億円
平成20年 14億2000万円   14億4600万円   2600万円
平成21年  7億8400万円    7億9800万円   1400万円
                               合計1億5500万円

(中村和洋法律事務所HPより、以下の引用も同じく)

これは課税の議論とは直接関係ないが、競馬ファンとして興味があるところ。平成17年度は回収率にすると1.1倍弱でしかないが、元手が100万円だそうなので一気に10倍に増やしていることになる。やっぱりスタートダッシュが肝心なわけだ。

2年目の平成18年は少し苦しんだみたいだが、翌平成19年に大勝ちしている。累計で元手100倍以上だよ。その後もコンスタントに勝っている。資金的に余裕が出来たとはいえ、これだけでもすごい。

しかし、まあよくこれだけの勝負をしたと感心せざるをえない。

確定申告をしなかった理由

 Aさん(引用者註:原告の方です)は、当初、競馬の収支が黒字になったことから、確定申告をすることを考えました。しかし、インターネットで情報を集めて調べたところ、国税当局は、上述のようにはずれ馬券を経費として認めないことを知りました。(中略)そのため、もし確定申告をして国税当局の言うとおりの納税を求められると生活が破綻してしまうと思い、確定申告をすることができなかったのです。

そりゃそうですな。情状面もしっかり目配り、と。

所得の種類が争点だったのか!

 国税当局は、「一時所得」、つまり、偶然入った所得だと主張しています。
 Aさんは、一時所得ではなく、「雑所得」だと主張しています。
 そして、馬の収入の経費について、はずれ馬券を経費に認めるべきか否かという点が争点となっています。

報道から読み取れていなかったが、これが最大のポイント。やっぱり所得税は所得の種類が肝心なんだね。
で、お次はAさんの勝ちが「一時所得」ではないとする理由。*1

 Aさんは、自ら独自のシステムを構築した上で、そのシステムに基づいて、インターネットで自動的に馬券を注文していました。その回数は、極めて多数回にのぼるもので、継続的なものでした。
 また、Aさんのシステムは、過去のデータを統計的に分析した結果に基づいて、各レースで馬券を多数購入し、投資した金額の全体の回収率を高め、投資金額よりも多くのリターンを長期的に得るというものでした。
 所得税法において、「営利を目的とする継続的行為」は、一時所得に当たらないとされています。
 Aさんのしていた行為は、まさに「営利を目的とする継続的行為」であるから、一時所得には当たらないと主張しています。また、競馬は娯楽という面もありますが、単に消費するだけでなく、一定の馬券による払戻があることや、実際にAさんが継続的に利益を上げていたことからしても、「営利の目的」があるのは明らかだと考えています。

コトの性質をしっかり踏まえていて説得力があるように思う。国からすると、ギャンブルの配当が「営利」なのか、と反論するのかね。
「継続的に利益を上げて」いないワタクシの馬券はどうなるのでしょうか、との疑問は残るが。。。

そうだ、そうだ!

 税金というのは、「担税力」、つまり税金を支払う能力があるところにかかってくるものです。しかし、国税当局の取り扱いは、Aさんの担税力を大きく超えて、実際に入っていないお金を所得として課税するもので、違法性が重大だと考えています。
 生活が破綻することを覚悟してまでAさんに確定申告を期待することはできなかったものと思います。
 また、Aさんは最初に準備した100万円を元手に競馬をしていたのであって、生活を犠牲にしてまで競馬にのめり込んでいたわけではありません。むしろ、健全な馬券の買い方をしていたといえます。一定の決められた枠内で馬券を購入し、それがもし増えればそれを元手にまた馬券を買うというのは、競馬ファンとして、むしろ模範的な買い方といえるでしょう。
 Aさんが、違法な賭博をしてお金を得ていたというのであればともかく、公営の競馬で、健全な範囲で投資を続けていたいたことを原因として、こんな不当な課税処分にまきこまれ、生活が破綻しかねないというのは、あまりにも理不尽ではないでしょうか。

これが模範的な買い方かどうかは置くとして。理不尽な課税であることはキッチリ言っておかねばなりませんね。

(Aさんの主張が認められたらどんな影響がありますか? )
 年間トータルで利益が出た場合には、確定申告をしなければならないということになれば、ルールが明確になるので、むしろ確定申告をきちんとしようという人が増えると思います。悪影響があるとは思えません。

現状の執行がよろしくないという点もキッチリ指摘されている。

ただし、今回の件で納税者側の主張が認められたとしても、Aさんの場合ほどに「営利を目的とする継続的行為」と言い切れない馬券購入をどうさばくかという問題は残る。たまたまWIN5がドーンと当たっちゃいました、なんて例。本当にフェアな制度にしたかったら、やっぱり法令自体を変えて競馬の配当は非課税にすべきと思うのだけれどな。*2

よい広報ですね

この広報により、ワタクシのような野次馬の好奇心を満たしていただいたのだが、それだけではない。競馬の腕を除けば普通のサラリーマンであるらしいAさんにとって、こんな形で槍玉に挙げられるとレピュテーションの問題も無視できないだろう。この弁護士さんのリリースはそうした面への配慮も行き届いていて、さすがプロと感心した。これだけでどうにかなるものでもないだろうが、何らか心の支えになるのではと推察する。

Aさんにも弁護士さんにも頑張っていただきたい。もし応援の署名を求められたら迷わずするよ。

*1:この場合、一時所得にあたらなければ、該当するのは雑所得しかないと思われる

*2:仮に現状の税収に見合うくらい控除率を上げてもたぶん大勢に影響ないだろうと思う